“会津の奇跡”――会津若松ザベリオ学園の改革 第3回

こんにちは。コアネット教育総合研究所の松原和之です。

会津の奇跡の続きです。第1回、第2回は過去記事をご覧ください。

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■マーケットを見た素早い改革スタートが功を奏する

通常、共学化や新コース設置というのは、1年や2年の準備で実行することは難しい。しかし、関校長は一方でマーケットを抜け目なく読んでいた。2013年以降は中学校卒業生の人数が激減する。2012年までに一定の成果を出さなければならない。さらに、会津の中でも周縁部の高校の志願者が減り、トップ校を含む中心市街地の高校の志願者が増える傾向が見えてきていた。会津若松ザベリオ学園は、まさに市街地の真ん中、葵高校の隣接地に立地している。市街地のトップ校の人気上昇をそのまま調整なく志願につなげることができれば倍率が上がり、不合格者が多数出る。この傾向は私立の併願入試には絶好のチャンスである。
この好機をとらえようと、関校長は、1年未満の準備期間で併願入試に踏み切ることを理事会に提案した。そして、守屋学園長は即座に了承、決断を下した。
関校長は、「学園長の経営的支援がなければ、この改革は成功しなかった」と振り返る。経営を担う学園長と教育を担う校長の両輪がうまく回ったことが改革の成功要因の一つと言えるだろう。
その証拠に、本来は経営的には承服しにくい入学金の大幅値下げも断行している。併願で合格した生徒の入学金は3万円である。受験料1万円と合わせても、4万円である。正式にザベリオ高校への入学が決定した場合残りの入学金を支払う方針を決定した。これであれば、県立にチャレンジしてダメだった場合は私立でも仕方がないと思わせることが出来る。こういった経営的な決断も併願入試を成功に導いたのである。
2011年度入試で併願入試を導入して一定の成果を得た当校は、2012年度、高校の共学化に踏み切った。併願というマーケットを創り出した会津若松ザベリオ学園が男女共学になったことで、一気に中学校や受験生は反応した。結果的に、全会津の受験生が1,800名弱しかいないところで、当校は918名の志願者を集めた。高校受験生の2人に1人は当校を志願したということである。そして、市街地にある5校を不合格になった生徒の7割は当校に入学した。併願入試大成功である。また、人気は単願にも及び、結局大幅な定員超過となる入学者を得ることになったのである。

■より良い教育へのこだわりと徹底

こうやって見てくると、周到なマーケティング戦略と入試改革で成功したように見えるかもしれないが、もちろん内部の教育改革なしには成功はあり得ない。
関校長は、まず学校をオープンにすることから始めた。私立とはいえ、地域に存在価値を示さなければならない。特に、生徒たちの成績がどの程度かということを地域の中学校に開示した。全国模試の結果を使い、新たに設置した特進コースのクラス平均の偏差値が県立葵高校に肉薄していることを示した。県立高校に不合格で併願で入学した生徒たちを立派に伸ばしていることを証明してみせたのである。
学習面においては、従来から定評のあるきめ細かな指導に加えて、新たな学習プログラムを取り入れていった。家庭学習と小テストのサイクルで基礎学力を定着するシステムは、東京のある私学の取り組みを参考に取り入れたものである。守屋学園長は、若手教員を連れて、たびたび東京の先進校の視察に出掛けている。
会津の中に閉じこもっていては発展はない。東京だろうが、もっと遠くであろうが、よい事例があれば勉強に行くべき。」と守屋学園長は言う。
東北新幹線が開通して便利になったとはいえ、会津若松から東京までは3時間以上かかる。往復すれば丸一日の時間を要する。それでも、それ以上の価値があるというのである。
会津若松ザベリオ学園が学力を伸ばしている理由のもう一つは、教員の実力と情熱の高さである。改革からの2年間で、18名の教員を新たに採用している。それも、全国から優秀な教員を集めてきているという。関校長の「一緒に良い学校を作ろう」という熱意ある説得で意気に感じて会津まで来たという教員も多い。
さらには、教員の実力向上のための育成制度にも余念がない。2011年度から生徒による授業評価と、授業力診断シートを利用した管理職による授業評価制度を取り入れた。教科指導、教科外指導、校務についての目標管理制度も導入している。また、研究授業も定期的に開催する。毎月テーマを決めて大学入試問題研究も行っている。こうして、急速に実力を向上させていったのである。

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次回が最終回です。続きは後日!