生徒の主体的学びを引き出す「eポートフォリオ」・・・清教学園の実践

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

先日、大阪府にある清教学園中・高等学校の授業を見学させてもらいました。清教学園は、キリスト教主義に基づく教育を行う男女共学の中高一貫校です。礼儀正しく落ち着いた雰囲気の生徒が多いのは、自然に囲まれた素晴らしい環境とキリスト教教育、そして先生たちの日々の努力の賜物だと思います。

今回、清教学園を訪れたのは、この学校が「eポートフォリオ」を取り入れた教育を行っているとお聞きしたからです。「eポートフォリオ」という言葉は、あまり聞き慣れないと思います。近年、大学では導入が進んでいますが、中高で本格的に取り入れている学校は全国でもほとんどありません。
「eポートフォリオ」は、一言でいうと、学習者中心の学習活動と評価活動をサポートする学習支援システムです。生徒一人ひとりの学習過程におけるエビデンスを蓄積し、学習におけるパフォーマンスと学習プロセスの評価を行うための仕組みです。
もう少し平易にいうと、生徒が授業中に作った解答や文章、作品などを見える形で残し、その共有や評価・振り返りを通じて、生徒自身が学びのPDCAサイクルを意識し、主体的に学ぶ力を身につけていくためのサポートをするシステムです。

清教学園では、2013年度から研究を始め、文部科学省の研究指定を受けながら、システムの開発を進め、2014年秋から授業の中でeポートフォリオ・システムを使いながらの実践研究を行っています。
私が見学させていただいたのは、高1の情報の授業。「ニュース早わかり」と題して、生徒たちがグループで或るテーマについて調べ、それをニュース風にまとめてプレゼンテーションするという授業です。見学した授業は、ちょうどそのプレゼンテーションと振り返りを行う回でした。

授業を行った場所は、コンピュータ教室。生徒たちは休み時間に移動してきて、自分の席に座ると机の上の蓋のような扉を開けて、パソコンを引き出し、スイッチを入れて立ち上げます。ここまでは先生の指示もなく、準備が進みます。
チャイムが鳴り授業が始まると、1人1台のパソコンを使い、開発を進めてきたeポートフォリオ・システムの画面を開いた状態で授業は進みます。

4人の生徒が教室の前に出てきて、スライドや動画を使いながら、プレゼンテーションします。プレゼンが終了すると、先生が講評をしているのを聞きながら、生徒たちはパソコンに何かを打ち込み始めました。

何を書いていたのかというと、いま行ったプレゼンに対しての評価です。1つの班に対して全員が評価コメントを書き込みます。すると、生徒の画面にも、先生の画面(プロジェクターで投影している)にも、リアルタイムに評価が見えるようになります。先生は、この評価コメントを指し示しながら、評価についても講評します。高校生同士ですから、評価として適切なコメントもあれば、少し遊び半分で評価として適切でないコメントもあります。先生は、評価というものが何なのかについても解説をし、きちんと考えて評価コメントを書くように指導をします。
学びには、他の生徒について評価を行うことも大切なことです。他人の学習成果を見て、自分の学習についてのメタ認知を得ることができます。

このeポートフォリオ・システムの1つの特徴は、この相互評価の仕組みです。リアルタイムに相互評価が可視化されるとともに、この相互評価もポートフォリオとして蓄積されます。

順番に班ごとにプレゼンをしていき、すべての班の発表が終わったところで、こんどは自分を振り返る自己評価を行います。この授業では自己評価はプリントに鉛筆で記入していましたが、この紙をあとでスキャンして、ポートフォリオに蓄積していくとのことです。
もちろん、班ごとに作成したプレゼン資料や動画ファイルもポートフォリオとして蓄積されます。

こうして、授業を行いながら、作品やそれについての自己評価、相互評価を蓄積していくことができるのがeポートフォリオの基本機能です。生徒は学期末や年度末などに、自身のポートフォリオを振り返りながら、自分の成長について自己評価することができます。

清教学園のシステムには、さらに、蓄積された作品のうち、自分で公開可と判断したものについては、他の生徒でも見られるようにする「ショーケース」機能があります。保護者もIDとパスワードを持ち、自宅のパソコンから子どもの作品を閲覧することができます。自分の子どもがどのような学習活動をしているのかを確認することで、安心感を得ることができますし、家庭での子どもの教育に役立てることができます。

eポートフォリオは中高の現場においては、まだ始まったばかりです。まだまだ研究していかなければいけないことがあると先生はおっしゃっていました。

1つの大きな課題は、評価をいかに可視化して生徒にフィードバックしていくかです。
清教学園のeポートフォリオ・システムにも、ルーブリック評価を行う機能、そしてそれをレーダーチャートで見やすく可視化する機能もついているそうです。

清教学園では、来年度から生徒1人1台の情報端末を持たせて授業を行う計画があるそうです。そうなると、現在実験的に一部の教科で利用しているeポートフォリオも全教科で使えるようになります。そのためには、各教科におけるルーブリックも作成しなければならず、まだまだやらなければならないことはたくさんありそうです。

アクティブ・ラーニング化が進む中高の授業において、この評価の問題は大きな課題になっています。eポートフォリオは、生徒の学習のPDCA確立にも役立ちますが、アクティブ・ラーニング実践における評価の課題を解決する1つの方法になると思います。清教学園においても、また別の学校においてもeポートフォリオの研究がさらに進むことを大いに期待したいと思います。