リベラルアーツ教育の新たなる挑戦

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

日本におけるリベラルアーツ教育というと、東京大学教養学部国際基督教大学がその代表でしょう。リベラルアーツという言葉は、一般には、大学において、専門分野に絞るのではなく幅広い分野を学ぶという意味で使われます。

日本の大学では、以前は、1〜2年生を教養課程、3〜4年生を専門課程というように区分し、1〜2年生のときには幅広い分野を学ぶというようになっていましたが、1991年の大学設置基準の大綱化により、その縛りはなくなり、いまは教養課程・専門課程という区分はほとんど見られなくなりました。
その代わり、近年、「国際教養」という名のリベラルアーツ大学(学部)が増えています。早稲田大学国際教養学部上智大学国際教養学部などがその例です。秋田の国際教養大学もその代表といえるでしょう。

リベラルアーツという言葉は、古代ローマの「アルテス・リベラレス(artes liberales)」が語源と言われています。ローマ時代の後期には、人が持つべき技芸として「自由七科」(文法学・修辞学・論理学・算術・幾何学天文学・音楽)が定義されていたそうです。
リベラルアーツの「アーツ」は「アート」のことですが、日本でアートというと「芸術」を指しますが、欧米では少し捉え方が違います。欧米の学問体系は「サイエンス」と「アート」に分かれています。「サイエンス」は神が作ったもの(自然に起こること)を対象にしており、自然科学と社会科学に分かれます。一方、「アート」は、人が作ったものを対象にしています。美術や音楽は人がつくったものですよね。だからアートです。でも、人が作ったものということでいうと、哲学や論理学、数学、法学なんかもアートの区分に入るのでしょうね。だから、かなり広い分野の学問がアートの中に入ります。

幅広いことを学んで「人を自由にする学問」という意味で「リベラルアーツ」があるわけですが、現在では、アートだけではなく、専門分野を超えて幅広く学ぶことをリベラルアーツと呼ぶようになっています。

アメリカには有名なリベラルアーツ・カレッジがたくさんあります。アマースト・カレッジ、スワスモア・カレッジ、ウィリアムズ・カレッジなどはハーバード大学よりも人気が高いぐらいらしいです。このようなリベラルアーツ・カレッジを卒業して、専門分野を学ぶ大学や大学院に進学するのがメジャーな進路のようです。日本のリベラルアーツ大学では、卒業後に就職する人が圧倒的なので、そういう意味ではアメリカのリベラルアーツ教育とは異なっているようです。

そこで、新たにアメリカ式のリベラルアーツ型教育にチャレンジする大学が生まれました。山梨学院大学国際リベラルアーツ学部(通称、iCLA)です。
iCLAは、2年前に開設されたまだ新しい学部です。オリンピック代表選手も輩出するスポーツの殿堂ともいえる山梨学院大学がなぜ今リベラルアーツ教育を始めたのか。先日、マイケル・ラクトリン学部長、須賀等副学部長にお話を伺ってきました。

iCLAには、秋田の国際教養大学(AIU)を経験した教授が多くいるそうです。AIUを超える本格的なリベラルアーツの大学を日本に作りたいとのことで、新学部として設置されました。もちろん、授業はAll English、1年間の海外留学必修、1年生は必ず国際寮に入寮、とAIUでやっていることは網羅し、さらに本格的なリベラルアーツ教育を行う(AIUは本当の意味でのリベラルアーツではないと喝破)ことで、他の大学と一線を画そうとしています。


教室や教授の研究室は全面ガラス張り。学生と教授のコミュニケーションが円滑になる。

ラクトリン学部長によると、リベラルアーツ教育を通じて「CCIG」を育てるということですが、創造的(Creative)、批判的(Critical)、自立的(Independent)、グローバル(Global)な思考力を育てるという意味だそうです。


カフェテリアの横には竹を配した和風な空間。グローバルだからこそ、あえて日本風のものを多く取り入れている。

幅広い学問分野に触れることで、本当に自分がやりたいことを見つけるのがリベラルアーツ教育の神髄です。そういう意味では卒業後の進路が重要です。また、社会変化が激しく、学生時代に身につけた専門性だけで一生働き続けられない世の中だからこそ、幅広い教養のベースが大切になります。そのベースの上に、いつでも専門性を載せられるようになっているとキャリアを考える際にも強いでしょう。

このような新たな挑戦も始まっていますが、日本における本当のリベラルアーツ教育が定着するかどうかは、これからだと思います。日本の大学のグローバル化もこのあたりが勝負どころかもしれません。