21世紀のラッダイトを起こすな

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

19世紀のイギリスで、産業革命にともなう工場における機械利用の普及で失業の危機を感じた労働者たちが機械を打ち壊す運動を行いました。それをラッダイト運動といいます。

当時の労働者たちにとって、仕事を機械に奪われるという危機感はかなり強かったでしょう。中には実際に職を奪われた労働者もいたでしょう。
しかし、長い歴史を振り返ってみると、必ずしもそのことにより人間の仕事がなくなっているわけではありません。むしろ、新たな仕事がどんどん生み出されています。
つまり、新しい文明や技術の変化に抗っても仕方がないのです。

いま起きているICTや人工知能の進展は、あらたな産業革命とも言われるほどです。将来、人間の職は全て人工知能に奪われるのではないかという危惧さえ聞かれます。

では、我々はこれに抗い、コンピューターやロボットを打ち壊せばいいのでしょうか。
いや、やはり、我々はこれを乗り越えた先の新しい職を想像して、それに対する準備をしておくべきなのではないでしょうか。

小中高校は、10年後、20年後の社会を担う子どもたちを育てています。
15年後には今ある仕事の半分は人工知能やロボットに置き換わると予測されている現在、子どもたちにどんな資質・能力を身に付けさせてあげれば良いのでしょうか。

学校のICT化や新たな資質・能力を育むために行われるアクティブ・ラーニングに抵抗しているあなた。その抵抗は静かなるラッダイト運動かもしれませんよ。
それよりは、その先を見て、自分が変わっていかないといけないと思いませんか。

東山高校のアクティブ・ラーニングは進化し続ける

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

昨日(2017年1月28日)、京都の東山高校で、アクティブ・ラーニング実践研究会がありました。

担当の先生が東山高校でのアクティブ・ラーニングの取り組みを紹介した後、アクティブ・ラーニング型授業の公開授業がありました。授業後の検討会では、全国から見学に来られた先生方が集まり、授業の良かった点、改善できる点について話し合いました。
東山高校では、1年半前から学校あげてのアクティブ・ラーニングの推進に取り組んできています。現場の先生方が集まり、研修会や勉強会、研究授業などに積極的に取り組み、徐々に校内に広げてきています。


開始前の案内アナウンスは、ロボットのPepperくんが行っていました。先進的!

一般に、東山高校のような進学校の場合、大学受験の対策として、きちんと教科知識を獲得させなければいけないというプレッシャーがあり、なかなかアクティブ・ラーニングに取り組めません。
しかし、大学入試改革による求められる力の変化や、教育目標である「セルフリーダーシップ」の実現の必要性を訴えながら、主体的に学ぶ大切さを徐々に浸透させてきています。


副校長の福地先生が学習力強化プロジェクトの委員長となり、アクティブ・ラーニングを率先して進めています。

授業検討会の後は、京都大学の山田剛史先生からの総括講演がありました。
山田先生は、アクティブ・ラーニングの推進を教師個人の取り組みにするのではなく、組織として取り組むことの重要性を説いていました。


京大の山田先生は東山高校の学習力強化プロジェクトの外部委員として、推進を支援しています。

東山高校では、定期的に勉強会を開いたり、教科横断の三人組で授業案を考える取り組みをしたり、アクティブ・ラーニングをチーム・ティーチングで行ったりと、個々の活動にならないように気を付けていました。こうして、組織的な取り組みにしているのだと思います。

東山高校は、近年、大学合格実績を伸ばしてきた男子進学校です。このようなタイプの学校がアクティブ・ラーニングの導入に成功すれば、アクティブ・ラーニングの未来も明るいと思います。

このような研究発表会はゴールではなく、PDCAサイクルのC、つまり外部の人にも評価してもらい次の改善につなげる通過点なんだと、東山高校の先生もおっしゃっていました。

このような前向きな取り組みに敬意を表します。これからの進化に期待しています。

芸術はいつから始まったのか

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

人類の歴史上、芸術はいつから始まったのでしょうか。いまのところ、旧石器時代前期までの原人や旧人ネアンデルタール人等)の時代に芸術が生み出されていたという証拠はないそうです。
芸術が存在したという一つの証拠は洞窟壁画です。これは4万年前頃のヨーロッパ、つまりクロマニヨン人の時代になってからです。
クロマニヨン人は、DNA解析では我々と同じホモ・サピエンスです。つまり現生人類の仲間です。つまり、芸術はヒトが誕生した以降に生まれたと考えるのが妥当なようです。

クロマニヨン人による洞窟壁画としてもっとも有名なのは、2万年前に描かれたというフランスの「ラスコー洞窟」です。
そのラスコー洞窟の壁画の一部を1mmの狂いもなく再現したレプリカを展示する特別展覧会がありました。国立科学博物館で開かれた「世界遺産ラスコー展 〜クロマニヨン人が残した洞窟壁画」です。

この特別展は、10分の1模型でラスコー洞窟の全貌を紹介したり、牛、バイソン、鹿だけでなく、いまだに謎なトリ人間のようなものが描かれた壁画までを実物大で再現したりと、とても学びの多いものでした。

また、「この洞窟の発見は、一人の少年の偶然の行動からだった」「暗い洞窟の中で壁画を描くために、石製のランプを使っていた(火を灯りとして利用した痕跡としてはこれが最古)」などの初めて聞くエピソードもあり、とても楽しく観ることができました。

クロマニヨン人は、高度な裁縫技術を持ち、貝殻や骨のアクセサリー、ビーズをつけた頭飾りなども身に付け、芸術的なセンスを持っていたようです。


ブレスレッドや頭飾りなどをしていたと想像されています。


草刈正雄ではありませんよ。クロマニヨン人です。

近年の研究から、ホモ・サピエンスはアフリカで進化し、5万年前以降に世界中に拡散したことが分かっています。クロマニヨン人はその中でヨーロッパに渡っていった集団です。日本にも3万数千年前にホモ・サピエンスが渡ってきて、その後縄文人に進化していきます。
アフリカや日本ではその時代の芸術の証拠は見つかっていませんが、何かしらの芸術が存在した可能性は否定できません。

4万年前、いや、もっと昔から芸術はあったのかもしれません。しかし、芸術はヒトが生み出したものであることは変わりないようです。逆に言えば、芸術を生み出す知能を持ったのがヒトなのかもしれません。

ヒトだけが創造できる芸術。もっと大いに楽しんだ方がいいのかもしれませんね。

入試では積み残しを解消できない

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

1月10日から埼玉県の私立中学校の入試が始まりました。首都圏の中学入試はここがスタートで、1月20日から千葉県、2月1日から東京都、神奈川県の私立中学校の入試が始まります。

中学入試では、多くの学校が6割ぐらいの得点率で合格できます。競争性が少ない学校では5割程度でも合格できるところも少なくありません。

ということは、半分の問題は正解できていなくても合格できることになります。
もちろん、どの程度の難易度の問題を出しているかにもよりますし、時間制限がある中で解いているということもあるので、不正解だった問題の分野のすべてを理解していないわけではないと思います。しかし、合格者の多くは、少なからず何らかの小学校範囲の学習に積み残しがあるということは否めません。

実際、入試をくぐり抜けて入学している私立中学校の生徒でも、算数の分数の計算に不安がある、比の概念がちゃんと理解できていないなんていう子はたくさんいます。

でも、多くの学校では、小学校範囲の学習は済んでいることを前提に、当たり前のように中学校の学習内容を教え始めます。これで大丈夫なのでしょうか。
積み残しがあるままでは、どんなに頑張っても積み上がっていかないのではないでしょうか。

近年、多くの大学でリメディアル教育と称して、大学入学時に高校までの学習の復習をしています。これと同じことを私立中学校も行ったほうがいいのではないかと思います。

幸い、最近は、ICTを活用した学習が容易にできるようになりました。先生が生徒一人ひとりの苦手を見極めてプリントを用意して学習させ、採点、チェック、フォローをするのは大変です。それをタブレット端末などに入った(ネットでつながった)学習アプリが簡単に解決してくれます。

生徒はタブレット端末を使ってゲーム感覚で学習を進めます。コンピュータがその子の苦手を判定して適切な学習単元の問題を出していきます。生徒は知らず知らずに苦手を克服していくことができます。
中学校に入学したら、生徒にタブレット端末を購入してもらい、学習アプリを設定して、中1の夏休みまでにリメディアル学習をしてもらうのはいかがでしょうか。

これからの学校でのICT活用は、アクティブ・ラーニングと並んでアダプティブ・ラーニング(個別適応学習)が重要だと思います。生徒一人ひとりの理解度に合わせて学べる学習アプリを活用して着実な学習を目指してはいかがでしょうか。

ということで、受験生には入学後にしっかり学んでもらうことにして、少し甘めに合格させてあげてください。将来性に期待しましょう!

Do the impossible!

あけましておめでとうございます。コアネット教育総合研究所松原和之です。

平成29年(2017年)が始まりました。
昨年は、リオデジャネイロ五輪で日本選手が大活躍したり、広島カープが25年振りにリーグ優勝したりと、日本中が盛り上がるニュースもありましたが、一方で、熊本や鳥取の大地震で多くの被害者が出るなど、悲しい出来事もありました。また、天皇陛下生前退位を意図するような発言をしたり、小池都知事が誕生したり、オバマ大統領の広島訪問、安倍首相の真珠湾訪問など、未来に向けて新たな一歩を踏み出す出来事もあり、未来への期待(と不安)も膨らんでいます。

私個人でいえば、昨年はアクティブ・ラーニングとルーブリック、ICT、大学入試改革の話題に明け暮れた一年でした。全国でセミナー講師を務めたり、学校の研修会に呼ばれることも例年に比べて多かったです。今年も新しい時代に合わせた教育のトレンドを掴みながら皆さんにお届けして行こうと思います。

さて、私の今年のスローガンは「Do the impossible(不可能を可能にする)」です。

この言葉は昨年末に、元デュポン社長で経済同友会教育改革委員会委員長の天羽稔さんからお聞きしたものです。
とても響きが良く、私の今の思いにも合致していたので、拝借させてもらいました。

教育界は、もともと前例主義で保守的なところがあります。何か問題があってもなかなか新しい手立てが立てられないことも多いです。諦めているわけでもないと思うのですが、「どうせ無理」「やっても無駄」という雰囲気が漂うこともあります。そんな時、この言葉を思い出したいのです。

成績表で2ばかりの子をオール5にする。毎年地区予選初戦敗退のチームを甲子園出場に導く。過去にまったく実績はないけれども東大に10名合格させる。

普通に考えたら不可能なことですが、これをどうやったら可能にできるかを考えたいのです。
子どもたちの可能性に蓋をしたくないのです。
それが、「Do the impossible」の精神です。

私たち(コアネット教育総合研究所)はコンサルティング会社です。
学校だけでは不可能なことを、私たちがお手伝いすることで可能にしてこそ価値があります。

先生方に対しても、「Do the impossible」を伝えていきたいと思いますが、まず自分たちが「Do the impossible」の精神で問題に立ち向かいたいと思います。

今年も、コアネット教育総合研究所をよろしくお願いいたします。


写真は本文には関係ないですが、初詣に行った神社です。


良いことをいっぱい酉こもー!

スーパーグローバルハイスクール(SGH)第1回全国フォーラム開催

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

本日、スーパーグローバルハイスクール(SGH)第1回全国フォーラムに参加しました。SGHは、高校生からのグローバル・リーダー育成を目的として2014年度から始まった文部科学省の事業です。初年度56校、2年目56校、3年目の今年は11校が指定され、現在全国で123校が国の補助金をもらってグローバル・リーダー育成の教育プログラムを実践研究しています。

各校の指定期間は5年間なので、初年度に指定された56校は、今年、中間評価を受けました。その中で「優れた取組状況であり、研究開発のねらいの達成が見込まれ、更なる発展が期待される」とSランク評価されたのは4校でした。
「これまでの努力を継続することによって、研究開発のねらいの達成が可能と判断される」とAランク評価されたのが16校、「これまでの努力を継続することによって、研究開発のねらいの達成がおおむね可能と判断されるものの、併せて取組改善の努力も求められる」というBランク評価が19校、「研究開発のねらいを達成するには、助言等を考慮し、一層努力することが必要と判断される」というCランク評価が15校、「このままでは研究開発のねらいを達成することは難しいと思われるので、助言等に留意し、当初計画の変更等の対応が必要と判断される」というDランク評価が2校でした。
「現在までの進捗状況等に鑑み、今後の努力を待っても研究開発のねらいの達成は困難であり、SGHの趣旨及び事業目的に反し、又は沿わないと思われるので、経費の大幅な減額又は指定の解除が適当と判断される」というEランク評価の学校はなかったものの、SからDまで、かなり幅のある評価に分かれました。
税金を投入して行っている事業なので、厳しい評価をしながら進めるのは当然のことですが、指定の段階でもっときちんと精査できなかったのかな、とも思います。

前置きが長くなってしまいましたが、その3年目までの中間報告としての第1回全国フォーラムが今日行われたのです。

フォーラムでは、SGH指定校から高校生6名が参加して、All Englishでディスカッションを行いました。用意したプレゼンを英語で行うのはまだしも、発表後にファシリテーターの松本茂先生(立教大学教授)からの英語での質問にも流暢に答える高校生たちの英語力に感嘆しました。

また、中間評価でSランク評価だった4校(渋谷教育学園渋谷名城大学附属、広島女学院島根県立出雲)の先生方が事例報告をしました。さすがはSランク評価を得ている学校だけあって、それぞれの取り組みが素晴らしいし、PDCAをきちんと行っている様子が分かりました。他の学校の参考にもなりそうです。

そして、基調講演は、東京大学吉見俊哉副学長による「文系の知とは何か。人文社会科学と自然科学を架橋する高大接続とグローバルリーダー育成」と題したお話でした。理系と比較して文系の学問は役に立たないと言われているが、そのようなことはない、というのが講演者の主張でした。理系学問は目的遂行的に役に立つが、一方で、文系学問は価値創造的に役に立つというのです。そして、価値創造的に役に立つのは「長く」役に立つのです。工学が3〜15年のスパンで役に立つのに対し、社会科学は15〜50年、人文学は50〜500年のスパンで役に立つのだそうです。
なかなか面白い視点です。

昨年、マスコミで国立大学の文系学部は統廃合されるというようなことが報道されましたが、それは誤解も大きいようです。文部科学省も必ずしもそういう文脈で語っているわけではありません。文系学部は長い目で見て必要な学問であるということもその通りだと思いますし、これからも文系学問を学ぶ必要性はあると思います。
グローバル・リーダーが理系なのか文系なのかは別として、日本を、そして世界を支え発展させる人材がこの日本で育つことが求められていることは確かです。子どもたちが学ぶ機会をきちんと確保することは私たち大人の大事な役目だと思います。
SGH指定校も、さらなる研究を進めて成果を出してほしいと思います。

ルーブリックづくりの難しさ

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

先日、ある中高一貫校の校長先生、教頭先生とルーブリック作成の意義について話し合う機会がありました。

教頭先生は、先日開かれた私が講師を務めるルーブリックをテーマにしたセミナーにご参加いただき、その意義について十分にご理解いただいたのですが、校長先生がまだ腑に落ちていないということで、学校を訪れてお話をしたのです。

話をしてみると、校長先生も意義をご理解いただいていないのではなく、実務的にどのように作成し、どのように運用していくのかという点で不安があるということのようでした。

私はセミナーの中で、学校としての教育理念をルーブリックの評価規準に落とし込み、それを6年間かけてどのように学習していくのかというカリキュラムづくりとカリキュラム・マネジメントが大切であると伝えました。
一般に、これまでのカリキュラムにおいては、教科の知識・技能をどのように学ぶのかということは、きちんと体系化されていたのですが、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性といった汎用的な資質・能力についてはカリキュラム化されていません。
それを中高一貫6年間分つくり上げるのだと言ったものだから、かなりハードルを上げてしまったのかもしれません。

話していくうちに、まず総合学習のプログラムで使うルーブリックをつくってみるとか、新しい大学入試でも重要な要素になってくる「思考力」や「記述力」についてだけ、6年間の育成ストーリーをつくってみるなど、現実的な解決策も出てきました。

この学校の校長先生の素晴らしいところは、先まで見通して、実際に効果があってきちんと実現できるプランを立てようとされているところです。

始めから壮大なプランを立てる必要はありません。できるところから始めて、徐々に理想の姿に近づけていきましょう。