「ミスターゆとり教育」と言われた男が見た未来

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

先日、元文部科学省寺脇研さんとお話をする機会を得ました。寺脇さんは、「ゆとり教育」が騒がれた2002年頃に文部科学省大臣官房審議官の職にあったため、スポークスマンとしての役割を担わされ、「ミスター文部省」または「ミスターゆとり教育」などと呼ばれていました。

しかし、実は寺脇さんは、ゆとり教育路線が始まった1992年頃は生涯学習局におり、その政策立案には関わっていないらしいのです。ただ、持論として、教師が一方的に知識を伝える教育のスタイルには疑問を持っており、それがゆとり教育路線と近かったため、スポークスマンとしての任を背負ったのだそうです。

世の中のゆとり教育に対する批判が強まると、個人的にも世間からの風当たりが強くなりました。そして、寺脇さんは定年を前にして2006年に文部科学省を退官しました。現在は京都造形芸術大学の教授などを務めています。

いまでは文部科学省とは一切関係がなく、一民間人ですが、彼は現在でも「ゆとり教育は正しかった」と自信を持って語っています。真のゆとり世代といえる2002年に小学校に入学した人たちは現在大学1年生になっています。あと4年もすれば、その世代が大卒で社会に出てくることになります。寺脇さんは、それがとても楽しみだと言っています。

私も、必ずしもゆとり教育の考え方が間違っていたとは思いません。2002年の学習指導要領の内容も否定すべきことは少ないと思っています。しかし、その政策が本当に目指したことが実現できたのかというと疑問に思う部分もあります。
政策は実現されて初めて意味を持ちます。政策が間違っていなかったとしても、教育現場で正しく実践されなければ意味をなしません。その意味では、ゆとり教育の政策は時宜を得ていたのかどうか、きちんと検証されるべきでしょう。

でも、私はゆとり世代の若者をダメだとは思いません。受けた授業数が少なくても、習った教科書が薄くても、その分、違うものを得て成長しているのだと思います。
東日本大震災が起きた時、経験のない規模の被災を前に思考停止して動けなかった大人たちに比べ、直ぐに支援活動に動いたのはゆとり世代の若者たちだったではないですか。

ゆとり教育が目指したもの・・・。もしかして、少しは実現しているかもしれません。ミスターゆとり教育が見た夢は、少しずつ実現に向かっているのかもしれません。

教育の成果が出るには時間がかかります。固定観念を持たず、じっくりと振り返ってみるべきだと思います。