幸福度世界一のデンマークに学ぶ(5) 〜エフタスコーレ

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

デンマークの教育に関する第5回目です。今回は、日本にはないデンマーク独特の教育機関をご紹介しましょう。それは「エフタスコーレ」です。
エフタスコーレは私立の1年間の全寮制学校です。14歳から17歳(8年生から10年生)を対象としていますが、多くは10年生に所属しており、一般的なコースとしては、中学校卒業後、高校に入るまでの1年間通うケースが多いようです。デンマークには260校程度あって、全体の3割ぐらいの生徒が経験するそうです。

今回(2014年9月)視察した学校は、ロラン島にある「Halstedhus Efterskole」です。在籍生徒は約150名。スポーツと乗馬に力を入れているのが特長です。

エフタスコーレは、高校に上がる前に教科の復習をするという意味もあるため、もちろん勉強の時間も確保していますが、人気があるエフタスコーレは、生徒の興味や関心をひく特長を持たせた科目を設定しています。音楽、スポーツ、美術、メディア、農業など様々な分野の特長を持った学校があり、生徒の自主性を尊重しながら個々の能力と学力を伸ばす努力をしています。
この学校も、午前中は通常の授業を行いますが、午後はスポーツや乗馬などの選択科目を履修します。立派な馬場と厩舎を持っています。

このように、中学校と高校の間というギャップイヤーに、スポーツなどを通じて人間形成を図るということがエフタスコーレの1つめのポイントだと思います。

同時に、このギャップイヤーは、将来を考えるための、いい意味での「立ち止まる時間」です。デンマークでは、高校段階から、いわゆる普通科高校と職業別専門学校に大きく分かれます。つまり、中学校卒業時に将来の大きな選択を迫られます。デンマークでは、「自分のことは自分で決める」「自分で決めたことには責任を持つ」という考え方が基本にあります。このエフタスコーレが人生を考えるための時間になっているというのが2つめのポイントです。

エフタスコーレの3つめのポイントは、全寮制だということです。訪れた学校でも、150名の生徒全員が1つの寮で共同生活をしていました。部屋は2〜6名ずつの相部屋です。日本人の感覚からするとだいぶ自由なルールになっています。ドラッグ、アルコール、いじめは退学の事由になるそうですが、それ以外はあまり規則がないようです。びっくりしたのが、男子寮・女子寮の区別がないことです。日本では必ず別棟になっていますが、ここでは、隣や向かいの部屋が異性の部屋になっていたりします。学校としては、異性関係にもあまり厳しくないようです。あくまでも自主性を尊重する教育なのだと思いますが、そこは国民性の違いもあると思います。

生徒たちの声を聞くと、「自分が何が得意で、将来何をしたいのかを考えることができ、自分に自信を持つことができた」「共同生活を通じて、生涯の友達ともいうべき最高の仲間と巡り合えた」という意見が多く、自己肯定感の醸成と多様性の中での共同生活を通じて共に生きる力を身につけることができることが分かります。

そして、4つめのポイントは、エフタスコーレは私立で有料だということです。デンマークではほとんどの学校は公立で学費は無料です。しかし、エフタスコーレは学校法人が運営をする私立学校です。運営費の70〜80%は公費によって補填はされていますが、家庭が負担する学費も50〜100万円程度になり、高い税金を負担しているデンマークの家庭にとっては決して小さな負担ではありません。
それでも多くの親が子どもにエフタスコーレを経験させるのは、子どもの成長に意味があると考えるからでしょう。

校長先生にインタビューをさせていただき、エフタスコーレの意義をお聞きしました。校長先生は2つ答えてくれました。1つは、全寮制というこれまでとは違う環境の中で、やったことのないチャレンジをすることで、成熟した人格を育むことができること。そして、もう1つは、色々な所から集まった多様性のある仲間たちの中で、同じ所にいたら味わえないような様々なことを経験し、認め合い、受け入れられるようになっていくことを挙げていました。移民も多く、多様な民族や宗教が存在するデンマーク社会にとって、このような経験はとても意味のあることだと思います。

私がこのエフタスコーレを訪れて、一番印象的だったのは、先生も生徒もとても明るく屈託がないことです。ともすれば、思春期で色々なことに思い悩み問題を抱えるような年齢ですが、通常の学校コースを離れ、なかば自由に様々なことを考え、経験できるこの環境にいることは、ある種人生のレールから解放され、将来にとって大きな意味を持つのではないかと思いました。

必ずしも中学校からストレートに高校に進むことが良いことではなく、多くの人がこうやってギャップイヤーを積極的に活用する社会の風土が素晴らしいと感じました。